お腹が空きました。
いや、分かっている。
一個一個はたいしたことではない。
分かっている。
分かっているんだけど。
「…………うっ…ふっ…ぐずっっ」
おばさまに運ばれて行くケーキ。
閉められたシャッター。
灰色の地面。
灰色の空。
ピカピカの靴の裏に感じるねちゃねちゃ。
雨に濡れて気持ち悪いストッキング。
首筋を流れる水分。
冷えていく肩。
暗い気持ち。
元彼の悲しそうな、そして充実してそうな複雑な笑顔。
隣を通る、相合傘の幸せそうなカップル。
崩れる化粧。
痛いぐらい収縮した胃。
……っ。
紗耶は深い心の底から塁線に上がってくるものをこらえきれなかった。
こんな、
なんでこんな日に全部重なるのだろうか。