お腹が空きました。


亜栗はくるりと紗耶に向きを変えてニッコリ微笑む。


「まぁ、後厨房に私の旦那と、奥の部屋に私の子供が寝てまっす。両親は私達が店ついでから隠居生活…もとい、フランスで友人のお店をのんびり手伝ってるわ。ん、ざっとこんなもんかな?」


他に質問ある?と亜栗が首を傾げると、紗耶はふるふると首を左右に振った。


「あ、でも、一つだけ…。」



「ん?何々?」



紗耶は遠慮がちに亜栗を見上げ、おずおずと訊ねた。


「あの…、さっき言ってた、杉崎さん中学からケーキ作らなくなったって話……、」


「ああ、あれね。」


キョトンとしながら亜栗が笑う。


「あの子馬鹿なのよー。いっちゃん長男でしょう?だから昔っからこの店は自分が継がなくちゃーみたいなのがあったみたいなの。でもね、小学校の時は近所の子に男なのに家がケーキ屋だって馬鹿にされたみたいなのね?でもそれでもめげずによくケーキ作ってたんだけど…お母さんがねー、言っちゃったのよ。余計な事をさ。あ、でもあの人なら言うなぁ言っちゃうねーしかも笑顔でねー。」


亜栗はため息をつきながら笑った。

その隣で慣れたように琥太朗が紅茶をすする。


亜栗のマシンガントークにタジタジしながらも紗耶は聞いた。


「余計な…事?」






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