知らない闇と、骸
「あ、ジロ見て。星の旅だよ。」
「星の旅?」
一番扉に近い棚の一番下にしまわれている、一際薄いこの家唯一の児童文庫を取り出した。
各星を渡り歩く迷い人が沢山の星たちに出会い、その星の主たちと話し、星の入り口を見つける。そこで何かを約束してから、星の入り口を閉じてしまう、という物語だ。
星の誕生と死、人の生き様などが伝えられる神秘の本だが、作者は一般公開せず、世に出てしまったものはすべて焼かれてしまった。
現在ここにあるのは、作者から譲り受けた、世界で唯この一冊のみ。
お父様はこの本を酷く大切にしていた。
「うん。とても、とても、古くて・・・一番大事なこと、沢山教えてくれる本。」
私はその本を戻すと、その扉を閉めた。
「この部屋はいつからあるんだ?」
「ずぅっと昔。ひぃひぃおじい様がこの家を建てた際、伴侶だった方と二人で内密に作られたそうよ。お父様が私の生まれる数年前に見つけたらしいの。」
壁をすっと撫でると、ツルッとした表面が指先に触れる。
私は、幸せに包まれていた。
あの日、使用人の叫び声を聞くまでは。