†危険な男†〜甘く苦い恋心〜Ⅱ
愛してるのに悲しい
ーーコンコン
「どうぞ」
扉を開けると、廉が困ったように笑った。
「こんにちは。調子どう?」
「あぁ。なんとかな」
廉が記憶を失ってから一週間が経った。
相変わらず記憶は戻らないけど、傷の方は回復に向かっている。
「入院って暇だな。こんな毎日寝てたら筋肉がなまっちまうよ」
「ふふっ。今はそれどころじゃないくせに」
廉はあの日から、あたしにとても優しく接してくれる。
嬉しい反面、悲しさも同じくらい残った。
「樹里は…なんでこんなに、俺に尽くしてくれるんだ?」
林檎を切っていると、廉が不意に聞いてきた。
なんで尽くしてくれる、か…。
あたしは林檎を置くと、彼に向き直った。
「好き、だから。廉に…あたしを思い出してほしいから……」
「………」
あたしはそれだけ言うと、再び林檎を切り始める。
涙が、出そうだった。
「お前が知ってる俺は…こういう男だったのか……?」
廉の声は心なしか、少し震えているように聞こえた。
「うん。いつもあたしを大事にしてくれて、頼りになって…廉の彼女になれて、本当に毎日幸せだったよ」
林檎を切り終えて、お皿に盛る。
ダメだ。
記憶を無くして、今一番辛いのは廉なのに…。