わたしのピンクの錠剤
親父の独白
あの日、アパートに帰ったとき、あいかはまだ戻っていなかった。
美智子先生のところに電話を掛けても、つながらない。
厭な予感がしたんだ。
放ってなんかおけなかった。
先生のマンションまで行き、チャイムを鳴らした。
でも、返事はない。
ノブに手を掛けると鍵は掛かっていなかった。
ドアをそっと開けて中を覗くと、あいかの靴が見えた。
「あいか」
靴を脱ぐのももどかしく、急いで部屋の中に入った。
思わず息をのんだ。
「何してんだ」
目に飛び込んできたのは、あいかが先生に馬乗りになっている姿だった。
違う。あいかじゃない。
あいかの別人格だ。
そいつは先生にまたがり、先生の首を絞めていた。
「やめろ。やめてくれ」
振り向いたそいつの形相は将に悪魔が乗り移ったようだった。
しかし、俺と目が合うと、昇華するようにあいかから悪魔の形相が消え、すうっと優しい顔に戻った。
そして、ふわりと気を失った。