わたしのピンクの錠剤
 
なかなか公衆電話が見つからない。

さっきの家で電話を借りればよかったと後悔しきり。
 


 そうだ、病院。

目の前に五階建ての病院があった。

入院していた時のことを思い出す。


中に入ると、思った通り公衆電話があった。

涙が溢れそうなくらいに嬉しかった。


でも、電話を前にして息を飲んだまま、なかなか掛ける決心がつかない。

以前、電話を掛けた時には、もう掛けてこないで、と言われている。


あの時は母子健康手帳のことは話していない。

そこに書かれた下平達哉のことを話そうと思う。

それでダメならあきらめもつく。

だけど、親父の言うように本当は掛けない方がいいのかもしれない。


下平達哉にしても、新しい奥さんにしても、大迷惑なのかもしれない。


 
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