わたしのピンクの錠剤
車は垣根に囲まれた広い屋敷に到着した。
歴史を感じさせる平屋の建物と、石造りの蔵が並んでいた。
私は茜さんの後についていき、家の中に入った。
年配の女性が出迎えてくれた。
茜さんは私の肩に手を置いて、その人の前に立たせた。
「あらまあ、ホントにそっくりだこと」
「お母さん、いきなりそれじゃ、失礼でしょ」
「まあまあ、細かいことは言わずに、さあさ上がって。さあ、あいかちゃんも」
広い畳の間に通された。
私はその人に覚えがある。
遠い昔の愛子の記憶かもしれない。
「ごめんね、あいかちゃん。初めてなのに紹介もしないで。この小うるさいおばさんがね、あいかちゃんのおばあちゃん」
「この子ったら、小うるさいはないでしょ」
おばあちゃん・・・。
二人の笑い声を聞きながら、私は後悔していた。
やっぱり来るべきじゃなかった。
あなたはおばあちゃんじゃないの。
私は・・・あなたの孫じゃないんです。
私はお母さんのことが知りたかっただけなんです。
私は
何を
しようと
してるの。
帰ろう。
下平達哉に会う前に帰ろう。