わたしのピンクの錠剤
それでも、私は認めるわけにはいかなかった。
「誘拐じゃないんです」
「あいかちゃんの気持ちはわかるけど、あの時には私たちも、世間も、ましてや警察も、誰もそうは思わなかった。新聞にも大きく載ったし、週刊誌にはあることないこと書かれた。あの時は本当に辛かった」
茜さんの話は私の頭をすり抜け、誘拐という言葉だけが頭の中で鳴り響いていた。
親父が誘拐犯として警察に追われている?
「それって、見つかると逮捕されちゃうってことなんですか?」
茜さんは首を横に振った。
「あいかちゃんは時効って知ってる?決まった期間、捕まらずに逃げ切れたら罪に問われないっていう法律。小田は5年という期間を逃げ切ったのよ」
おばあさんがそっと私の前に手紙を置いた。
見ると、差出人は小田健一、親父だった。
「何年か前に届いた手紙です。それを読んでみて。きっと事情がわかると思う」