わたしのピンクの錠剤
 
デパートで服を買ってもらったり、食材を買い込んでいっしょに料理を作ったりと、今までやったことのない普通を経験した。

そんな日常の中にある会話の一つ一つが新鮮で楽しく嬉しかった。


キッチンのテーブルで盛りつけの手伝いをしていた時だった。



ふと顔を上げると目の前に年配の男性が立っていた。

瞬きもせずにじっと私を見つめている。



「おい、かあさん、かあさん、・・」

「あら、お帰りなさい。お・じ・い・ちゃん」


その人は確かめるようにもう一回、私の顔を見た。

みるみるその顔は満面の笑顔に変わっていった。


「やっぱり、やっぱり、そうなのか。本当にそうなのか」

「いやですよ。落ち着いてください」



その日の夕食は今までに味わったことのない素敵な集いだった。

こんなに楽しい夕食を毎日食べられたらどんなにか幸せだろうと思った。


家族が集うという当たり前のことが、心地よかった。


 
< 155 / 264 >

この作品をシェア

pagetop