わたしのピンクの錠剤
 
「こんな楽しい食事は、あいつが死んでから初めてだったな」


しんみりとおじいさんが言った。

頷きながら、おばあさんは私の手を取った。


「私たちといっしょに暮らしてみない?」


私はその言葉にときめいた。

照れてしまいそうなほどに嬉しかった。


「今すぐにとは言わないから。ね、じっくり考えてみて」


そう言われて初めて親父のことを思い出した。

急に胸が痛んできた。

ときめいたことが恥ずかしいとさえ思った。



「あいかちゃんは小田さんの娘じゃなくて、達哉の娘なんだから、小田さんと暮らす理由なんて何にもないんだよ」



そうなんだなぁ、と思った。

親父と私をつなぐものは何もないんだ、とあらためて気がついた。



そう思うと涙がこぼれていた。


ぽろぽろと止めどなく涙がこぼれ落ちていた。


 
< 156 / 264 >

この作品をシェア

pagetop