わたしのピンクの錠剤
 
急に目の前が暗くなった。


私は深い海の底へと落ちていく。

そこは真っ暗で、静寂に包まれていた。



ふと視界の隅に白い光が入り込んだ。

見ると、それはずっと底の方。


私は吸い寄せられるようにその光の方へと向かう。

近づくと、海の底には直径30センチ程の穴が開いている。

でも、不思議と海の水はその穴へと落ちていかない。

私はゆらゆら揺れるその光の穴を覗き込んだ。


その穴からは、おじいさんとおばあさんが見え、親父と私も見えた。


違う。

それは私じゃない。

私のいないわたし。



赤ちゃんを道連れに自殺するような愛子の記憶のないわたし。

そこには本物のわたしがいた。



偽物はここから様子をうかがうしかない。


 
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