わたしのピンクの錠剤
 
じっとしていられなかった。

わたしの側に居てあげたいと思った。


覗いていた暗闇の底の小さな光から外へ出れば、近いような気がする。

でも、何故か、いま一歩を踏み出せなかった。


このラインを越せば、全てが始まるような気がしたが、全てが終わるような気もした。

そして、ラインを越すにはまだ早い、そう感覚的に思った。




私は暗闇の底を蹴飛ばすと勢いよく浮かび上がった。

手を真っ直ぐ上にのばし、海洋動物のように大きく腰をくねらせながら加速していく。


あの日、私がそうだったように、わたしも親父が殺人犯だと思ったに違いない。

でも、わたしはそれを受け入れられず、それ以降、目も耳も口も堅く閉ざしてしまったのだろう。

その存在さえ私に気付かれないほどに。



私はそんなわたしが愛おしくてたまらなかった。


遙か上方にあった光が迫ってきた。

キラキラとまばゆいばかりに輝いている。



私はその光の中を突き抜けた。


 
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