わたしのピンクの錠剤
検察側の冒頭陳述が終わると、裁判長は今日の裁判を終了した。
そして、次回の裁判日程を協議し、閉廷した。
裁判官が退廷すると、先生は再び手錠を掛けられ、ロープを回されて、静かに退廷していった。
美智子先生の人生において一番に重大な一日が、私の手の届かないところで淡々と過ぎていった。
美智子先生は裁判を通して終始うつむきかげんで、わたしと目を合わすことは一度も無かった。
親父とわたしは並んで法廷を出た。
廊下は傍聴者たちの喧噪の場と化していた。
「先生が殺したの?」
わたしが親父に聞きたくなる気持ちもわかる。
私にも検察の言い分は疑いようがないように思えた。
「先生が違うって言ってるんだから、俺らだけでも先生を信じてあげようじゃないか」
そう言うと、不意に親父は駆け出した。
「ちょっと、待ってろ」
手のひらを広げてわたしを立ち止まらせ、そのまま人混みの中へ消えていった。
わたしが慌ててあとを追いかけても、そこらに親父の姿はなかった。