わたしのピンクの錠剤
 
親父はたいして謝りもしないで、わたしの手を引いて歩き出した。

向かった先は地下の食堂。

そこには、さっきの弁護士のひとりと、美智子先生のお母さんが待っていた。


「ほとほと困ってたんです。小島さんは何も覚えていないと言うばかりで、何も話してくださらないんです。どうか教えて下さい。あの日、小島さんに何があったんですか?」


親父はあの日の出来事を簡潔に話した。

 美智子先生があいかの診察のために病院まで付き添ってくれたこと。

 病院で会った男があいかに言い寄ってきたこと。

 そして、その男はあいかに付きまとい、美智子先生の自宅まで付けてきたこと。


親父は必要最低限の事実を述べた。



「あいかちゃんは何故男に付きまとわれたんでしょう」

「わかりません」


親父は嘘をついた。


「そうですか。ともかく、小島さんと被害者は面識があったわけですね」

「いいえ、美智子先生は男の顔さえ知らなかったと思います」

「あの日、小田さんは小島さんに会われたんでしょう」

「はい。夕方、あいかを迎えに美智子先生の自宅に伺いました」

「何時ぐらいでしたか」

「えーと、美智子先生の家を出たのが7時ぐらいだったでしょうか」

「その時の小島さんの様子はどうでした」

「ええ、普通だったと思います」


親父の嘘にわたしの視線は流れ、美智子先生のお母さんの視線と交わった。


 
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