わたしのピンクの錠剤
裁判所にて
どこで間違ったのか、美智子先生の裁判で親父が証言をすることになった。
証言ではあいかなのことを話す手はずになっていた。
前回の裁判で、裁判所地下の食堂で親父に怒鳴られて以来、ずっと引きこもっていたわたしを何とか説得して、親父と仲直りさせ、いっしょに裁判に立ち会うことにした。
この前と同じように先生は刑務官に連れられて現れた。
ドアが開いたとき、先生は眩しそうに照明を見上げた。
そして、法廷内を見渡し、わたしと目が合った。
次の瞬間、先生はわたしから目をそらし、立ち止まった。
刑務官に促されても動こうとしない。
「いや、いやっ」
先生は前屈みになって、激しく抵抗している。
法廷内がざわめき始めた。
弁護士ふたりが先生の元へ走る。
「どうして、あいかちゃんがいるのよ」
確かにそう聞こえた。
『わたし、わたし・・』
美智子先生の言葉にショックを受けて、わたしは呼吸もままならない。
それなのに、私は何もしてあげられない。
そればかりか、九十九里浜の冷たい雨を思い出した。
私のせいかもしれないと、ひりひり痛む心をかかえたまま美智子先生を見ていた。