わたしのピンクの錠剤
「あいかちゃん、ちょっといいかな」
このまえの弁護士がわたしの横にしゃがんだ。
「小島さんがあいかちゃんには居てほしくないって言ってるんだ。わかるだろ。協力してくれないかな」
「協力?」
「そう、裁判が終わるまで、外で待っててもらえれば、とっても助かるんだけど」
「どうして?見ているだけなのに、だめなの?」
「本当にごめんね。裁判官への心象を悪くしたくないんだ」
わたしは追い出されるように法廷の外へ出された。
大きなドアの前にたたずみ、さっきの美智子先生の言葉を思い出していた。
『どうしてあいかちゃんがいるのよ』
美智子先生の悲痛な叫び。わたしの瞳は涙でかすんでいた。
窓の外は暗く、今にも雨が降り出しそうだった。
遅れて法廷に入ろうとする人が、わたしの横を通りすぎる。
「ちょっとごめんね」
肩を押され、よろめいた。
それをきっかけにわたしは足を前に進めると、次第にゆっくり走り出した。
『ちょっと待って』
私の声は届かない。
廊下を駆け抜け、わたしは外に飛び出していた。