わたしのピンクの錠剤
裁判官の顔色が変わった。
弁護士が親父を助けるように声を張り上げる。
「裁判長、異議あり。本件とは関係のない事項です」
裁判官はマイクを通さずに親父に向かって優しく話しかけた。
「小田さん、その娘さんであるかどうかだけ教えてもらえますか。もちろん、黙秘もできますが」
親父は黙ったまま微動だにしなかった。
そして、裁判官の口が開きかけた時、さえぎるように親父は答えた。
「誘拐じゃないんです。娘の母親に託されたんです。娘は私の実子でしたし、時効が成立した3年前に養子縁組をして法律上も私の娘になっています」
すかざす検察官は提言した。
「裁判長、参考人は結論の出ている被告人の精神鑑定を翻すような荒唐無稽な話を持ち出し、被告人の心神喪失を装おうとしています。
そして、参考人は誘拐という大罪を犯した犯罪者でもあります。
犯罪者の証言ということを鑑み、証言の無効を求めます」
「異議あり」
裁判長は二人の裁判官と協議した後、マイクのスイッチを入れた。
「参考人に逮捕歴はありません。弁護人の意義を認め、検察の要求は却下します」
一斉にため息がもれた。