わたしのピンクの錠剤
達哉が母子手帳に哀哉と記したとき、気付くべきだった。
達哉は疑っていたんだ。
もうすぐ生まれてくる子供が、自分の子供だとは思っていなかったんだ。
きっと、小田健一の子供だと思っていたんだろう。
裏切った愛子のことは許せなかっただろうし、小田健一も、分身の哀哉たちのことも憎んでいた。
そして、まだ産まれていない子供のことまで憎んでいたんだ。
達哉にはもう心安らげる場所はなかった。
残された道はひとつしかなかったんだろう。
覚悟を決めた達哉は、子供の不幸を願って母子手帳に哀哉って書いたんだと思う。
そして、達哉は自分で自分の首を絞めたんだ。
哀哉たちを道連れにして、自分も死ぬつもりだったんだろう。
でも、みんなに阻止され、思いを遂げることはできなかった。
その上、自分の身体から追い出されたんだ。
俺はそれを防いだつもりだった。
でも、どこで間違ったのか、俺もいっしょに追い出されていた。
あの時、達哉と俺はいっしょにいた。
達哉が包丁をつかんで、自分のいない自分の身体をメッタ刺しにするのを俺は呆然と見ていたんだ。