わたしのピンクの錠剤
突然のチャイムに驚いた。
美智子先生は立ち上がり、覗き穴から外の様子をさぐると、そこに立っていたのはあの男だった。
「どちらさまでしょう」
ドア越しに訊ねる美智子先生に男は誠実さを装い、物静かに答えた。
「私、小田さんの知り合いで黒木といいます。小田さんの娘さんのことで、ぜひお話ししたいことが・・」
(だめだ、騙されるな)
俺の声は美智子先生には届かない。
美智子先生はチェーンを掛けたまま、ドアを少し開けた。
「あいかちゃんのことって、何ですか」
「あいかちゃんの病気のことでご相談したいことがあるんです」
男はドアの隙間から美智子先生を真っ直ぐに見つめた。
「あの、小学校の近くにファミレスがあるんですけど、そこで30分後にお会いできますか」
男は腕時計を見て頷き、ドアの前を離れた。
(美智子ちゃん、やめとけ。やめといた方がいい)
届かない声に耳を傾けるはずもなく、美智子先生は淡々と身支度をすすめる。