わたしのピンクの錠剤
 
気付くと目の前に男の顔があった。

男の口はへの字に曲がり、これ以上ないぐらいに見開かれた目はにごっていた。

「けっけっけっ」

耳元で確かにそう聞こえた。



あざけるように笑う男の声に促されるように肩で男の身体を押すと男の胸に突き刺さった包丁が露わになった。


なぜか、その包丁は俺の手とつながっていた。



「俺じゃない、俺が刺したんじゃない。美智子先生が、美智子先生が・・」



この期に及んで俺は言い訳を考えていた。


それは虚しい言い訳。

何より自分が一番わかっているのに。



『人を殺したら一生その十字架を背負って生きて行かなくちゃいけないんだよ』



美智子先生の言葉がよみがえった。




目の前で殺人を体感するのと、自分の手で人を殺すのとでは雲泥の差があった。



今でもあの男の笑い声が耳から離れない。

幻聴や幻覚だってことはわかってる。

だけど、どうすることもできないんだ。



人を殺してしまった今、俺は生きていくのが恐ろしくて恐ろしくてたまらないんだ。


 
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