わたしのピンクの錠剤
 
細く歩きにくい山道。

『おい、あいこ、代われよ』

『だから、あいこって呼ばないでちょうだいって言ってるでしょ』


『ああ、わるい悪い。空気おいしいぞ。風も気持ちいいし。どうだ、代わろうか』

『だめぇ』


『なあ、たのむ。あいこでもアイコでも、どっちでもいいから代わってくれよ。俺はもう限界だって』


『なによ。いま代わったばかりじゃない。男でしょ。しっかりしてよ』




『わたしが代わろうか』

『あいかちゃんはいいよ。体力を温存しとけ。帰りもあるんだから』


何気ない日常の会話のはずだった。

あえて変わらない風を装っていた。

それなのに、あいかなのその言葉で、みんなが黙り込んでしまった。



そう、帰りに私たちはいない。

あいかをひとり残して旅立つ。



厄介者がいなくなって喜ぶと思った親父はそうではなく、旅立つと伝えた日からずっと機嫌が悪い。


そして、いまも何も言わずにもくもくと歩いている。


 
< 253 / 264 >

この作品をシェア

pagetop