わたしのピンクの錠剤
細く歩きにくい山道。
『おい、あいこ、代われよ』
『だから、あいこって呼ばないでちょうだいって言ってるでしょ』
『ああ、わるい悪い。空気おいしいぞ。風も気持ちいいし。どうだ、代わろうか』
『だめぇ』
『なあ、たのむ。あいこでもアイコでも、どっちでもいいから代わってくれよ。俺はもう限界だって』
『なによ。いま代わったばかりじゃない。男でしょ。しっかりしてよ』
『わたしが代わろうか』
『あいかちゃんはいいよ。体力を温存しとけ。帰りもあるんだから』
何気ない日常の会話のはずだった。
あえて変わらない風を装っていた。
それなのに、あいかなのその言葉で、みんなが黙り込んでしまった。
そう、帰りに私たちはいない。
あいかをひとり残して旅立つ。
厄介者がいなくなって喜ぶと思った親父はそうではなく、旅立つと伝えた日からずっと機嫌が悪い。
そして、いまも何も言わずにもくもくと歩いている。