わたしのピンクの錠剤
 
親父は岩に座り込んだ。

「親父、ここ座るよ」



私がすぐ隣りに腰掛けると、親父はちらっと振り向いた。

「あいこ、どうしても出ていくのか」

「うん、今までありがと」



親父は目を合わそうとはせず、遠く仙台湾をながめている。

「出て行くとおまえはどうなるんだ」

「私にもわからない」



「消えて無くなるんじゃないのか」

そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」



「わかってるのか。もう会えないんだぞ」

「うん、わかってる」



「どうだ、俺に取り憑いてみないか」

「ほんと?じゃ、あいかなといっしょに取り憑こうかしら」



「あいかなはやめてくれよ」

「ふふ、冗談よ。でも、私、あいかなといっしょに行こうって思ってる」




「そうか、あいかなを選んだんだな」

「やめてよ。いくら愛子の記憶があるからって、親父は親父なんだよ。しっかりしてよ」



「わかってる。わかってるんだ。だけど、おまえがいなくなれば、俺とあいかを結びつけるものは何にも無くなるんだぞ」



「なに言ってるの。親子でしょ」


 
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