わたしのピンクの錠剤
 
私は胸を締め付けられる思いを断ち切るように受話器を手に取った。

 

女性が出た。

「下平達哉さんはいますか」


返事がない。



その時になって、はっと思い当たった。

平日の夕方、まだこんな時間に家にいるわけがない。


私はなんてバカなんだろう。


「あの、何時ごろ戻り・・」

「あなたは何者なんですか」


突然のことだった。


「もう、私たちを苦しめないでください」


不意を突かれ、そして一方的に電話は切られた。

私はどうしていいのかわからずに受話器を持ったまま、その場にしゃがみ込んでしまった。

ただ、本当のことが知りたいだけなのに、私は深い井戸に落ちたように、身動きできずにいた。



電話の声が頭から離れなかった。

お母さんってことはないよね。




あっ、・・・新しい奥さん。

バカだバカだ。
なんて私はバカなんだろう。


お母さんのはずないのに。


 
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