わたしのピンクの錠剤
「私のお母さんって、どんな人だったの?」
「ああ、綺麗な人だった」
「お母さんは結婚してたんだよね」
テレビを見ている親父を見ながら、私は言葉を選ぶ。
「お母さんが結婚したのは下平達哉って人だったの?」
親父はじっと動かない。
「だって、母子健康手帳には母親;下平愛子、父親;下平達哉って書いてあったよ」
親父が視線をテレビから私に移した。
「あのなあ、」
私は怒られる、と身を固くする。
「本当は、おまえがもうちょっと大きくなってから話そうと思ってたんだ」
声だけだと怒っているようにはみえない。
それでも私は力を抜くことなく親父を見上げる。
意外なことにそこには優しい顔をした親父がいた。
えっ、本当のことを教えてくれるの?
私は更に身を固くした。