わたしのピンクの錠剤
 
「どうして保育園に預けなかったの」

「そりゃ、帰りが結構遅かったからなぁ」


 一日中、乳児の世話をする姿を想像した。

多分、想像以上に陽子さんには負担をかけていたんだと思う。

「感謝しなくちゃ、だめだぞ」


「うん、わかってる。親父にも感謝してる」

「そうか、大いに感謝してくれ」

親父を見つめると照れたような顔をした。


「11年になるんだよね」

「ああ、そうだな」


「無駄な11年だった?」

「馬鹿なこと、言うなよ」

「そろそろ戻ってもいいんじゃない」

戻るって?」

「お医者さん」


親父の顔色がくもった。

「立花先生に話してみようよ」


「子供にそんなこと言われたんじゃ、立つ瀬がないなぁ」

「ごめんなさい」


でも、でも、何とかしよう。
絶対、何とかしよう。


 
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