わたしのピンクの錠剤
先生は親父の前でくつろぐと、私に声を掛けてきた。
「それで、何かあったのかい」
「ううん、もういい、です」
私は投げやりにそう言い、親父の方をちらりと見やった。
つられて先生も親父に視線を向ける。
「お父さんのことかい?」
「ううん、でも、このまま大工さんを続けてて、いいのかなって思ったんです」
「そうか、先生だってこのままでいいなんて思っちゃいないさ。いつかは話そうと思っていた」
親父は先生の視線を避けるように私を睨みつける。
「なあ、小田。そろそろ考えてもいい頃じゃないか」
「すまない。ありがとう。でも、・・・」
「まてよ。あれから何年経ってると思ってるんだ。もう、昔のことは忘れてしまえよ」
「すいません。もうちょっと待って下さい。この子が中学生になるまではと思っているんです」