わたしのピンクの錠剤
 
しばらくすると、せわしい足音が聞こえてきた。

親父だ。

私は目を閉じた。


「おまえは、おまえは・・」

あぁ、うんざりだ。

親父に私の何がわかるっていうの。

奥歯をかみしめた。


嫌々目を開けると、すぐ目の前に親父がいた。


「バカ野郎・・」

親父の充血した目には今にもこぼれ落ちんばかりに涙がたまっていた。

「・・・親父ぃ」


無精ひげのせいか、親父は10歳は老け込んで見えた。

「俺の子だから、自殺なんてしないって言ったじゃないか」
「うん」

「忘れてんじゃないよ」
「うん」

それはわたしじゃなくて私の言った言葉。



私は親父に手をのばした。

親父はその手に気づくと、すぐに両手でその手を掴まえた。

そして、その手を掴んだまま、ぽろぽろと涙を流した。


「あはは、可笑しいな。涙が止まらないや」

「あはは、ホントだ」


私も何故だか可笑しくて可笑しくて、涙をぽろぽろこぼしながら笑った。


 
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