わたしのピンクの錠剤
「小田ぁ、気がついたか。良かった、ホント良かった」
なんと言っても、担任の加藤先生に一番迷惑をかけていた。
私を見失ってから、先生は街中を探し回っていたらしい。
それこそ、ずぶ濡れになりながら。
「私、本当は加藤先生のこと、苦手だったんです。だって、美智子先生を取られたみたいで・・」
「いや、嫉妬してたのは先生の方なんだ。以前、美術館に行っただろ、美智子先生と。エゴン・シーレ。チケットを用意したのは先生なんだ。美智子先生が小田を誘うってわかっていてね。それに美智子先生の部屋の鍵をわざとらしく見せたのも、そう。先生はそんな情けない男なんだ。美智子先生に嫌われるのも当たり前なんだよ」
「嫌われる?」
「そう、別れようって言われている。ここに小田を連れて来たんだって、本当は別れ話を何とかしたいっていう、それだけの理由なんだ。身勝手な発想さ」
「ううん、そんなことない。私もお見舞いしたかったんだ」
「本当に小田には申し訳ないと思ってる。美智子先生が言った言葉は、小田に言ったんじゃない。先生に向けて言ったんだ。小田が気にすることじゃない。わかったな。だから、もう死ぬなんて考えないでくれ」
涙ながらに語る先生を見ているうちに、私の中の暗黒の部分はどんどん小さくなっていった。
死ぬつもりだったのかどうかさえ、私にはわからなくなっていた。
「美智子先生からの手紙だ」
先生はポケットから手紙を取り出すと、私の手を取り、その手に包ませた。
「先生は先に帰ることにするよ。もう、九十九里に来ることもないだろう」