磯野くんと花沢さん


京子はああ見えて(失礼)、彼氏が居たりする。


幼稚園からの幼馴染らしい。


落語倶楽部の山田くん。


「山田、座布団持ってこい」が京子の口癖。


なんだかんだと仲が良くて、いつも二人で帰ってる。手こそつないでないけれど、学校から離れたら繋ぐんだろうな。


まだそれ以上のことはないらしい。


「山田、奥手なんだ」


ちょっと不満気に言うけど、今もじゃれあって帰っていく後ろ姿は、お似合いのカップルだ。


この私を一人、放っていくほどに。


そして私は傘を忘れた。


今ならまだ駆けていける。


あの相合傘に割って入っていけるなら、の話。


手は繋いでないけど、肩を寄せ合う二人の邪魔はできない。


雨脚はましているけれど…。


どうしたもんかと周囲を見回していると、ズンズンズンズン。


ズンズンズンズン‼


「これ‼」


怒ったように、傘を突き出す磯野君。


「え、でも…」


「じゃな」


雨の中を駆けていく磯野君。


別に相合傘でも良かったのにと思いながら、私は傘をさした。


とんでもなく嬉しかった。


とんでもなく。


< 12 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop