磯野くんと花沢さん
京子はああ見えて(失礼)、彼氏が居たりする。
幼稚園からの幼馴染らしい。
落語倶楽部の山田くん。
「山田、座布団持ってこい」が京子の口癖。
なんだかんだと仲が良くて、いつも二人で帰ってる。手こそつないでないけれど、学校から離れたら繋ぐんだろうな。
まだそれ以上のことはないらしい。
「山田、奥手なんだ」
ちょっと不満気に言うけど、今もじゃれあって帰っていく後ろ姿は、お似合いのカップルだ。
この私を一人、放っていくほどに。
そして私は傘を忘れた。
今ならまだ駆けていける。
あの相合傘に割って入っていけるなら、の話。
手は繋いでないけど、肩を寄せ合う二人の邪魔はできない。
雨脚はましているけれど…。
どうしたもんかと周囲を見回していると、ズンズンズンズン。
ズンズンズンズン‼
「これ‼」
怒ったように、傘を突き出す磯野君。
「え、でも…」
「じゃな」
雨の中を駆けていく磯野君。
別に相合傘でも良かったのにと思いながら、私は傘をさした。
とんでもなく嬉しかった。
とんでもなく。