幸せまでの距離

「マナ、ごめんね……」

ミズキは謝り、マナとの通話を終 えた。

自分のことのように親身になって くれるマナに頼りたくないと言っ たらウソになるが、もう、誰一人 として大切な人を失いたくないと ミズキは思っていた。

メイが居なくなってしまった直後 なので、なおさらその思いが強く なる。

リョウを亡くした時の衝撃や後 悔、喪失感といったものが、まだ 完全に消えてはいなかった。

むしろ、一生、その傷を抱えて生 きていくのだとも思う。

忘れることなどできはしない。

ただ、これからは、過去に胸を痛 めるばかりでなく、そうなる前に 予防できることは事前に予防した いと強く思っていた。

思い詰めた表情のミズキに、ナナ セは言った。

「ミズキちゃんも、帰って少し休 んだ方がいいよ」

「ううん。私はまだ大丈夫。

ナナセ君も、今日は本当にありが とう。

たくさん付き合わせてごめんね。

もう、帰ってもらって大丈夫だ よ」

ミズキは笑顔でそう告げるとナナ セに背を向け、人通りのない夜道 を突き進む。

気ばかり焦っていた。

このままメイが帰らぬ人になった ら……と、最悪の予想ばかりが頭 を占める。

秒刻みで焦りの感情は積もり、ミ ズキは完全に余裕を失っていた。

ナナセはミズキの心境を見越し、 彼女の腕を強くつかんで引き止め る。

「交番に行ってみよ?

もしかしたら、メイちゃんに関す る情報が何か聞けるかもしれな い。

俺も、最後まで付き合いたい」

「……ありがとう」

ミズキは涙目でナナセの顔を見上 げた。

「……大切な人を守るって、難し いね……」
< 250 / 777 >

この作品をシェア

pagetop