幸せまでの距離

「あんた、トウマのこと好きなん だって?

そう、メールに書いてたよね」

トウマのメールボックスを全て チェックしたのだろう。

カナデは冷ややかな目でそう言っ た。

「好きになるのは勝手だけど、人 の男に手を出すって、どういうこ とか分かってる?」

「あたし、知らなかったんです!

トウマさんに彼女がいるなんて、 ちっとも……。

知ってたら、仲良くなんてしませ んでした!」

メグルも自分の言い分を主張した が、カナデの威圧感は増すばかり だった。

「うるさい! そんなの、どっち でも同じことなんだよ!

あんたが私のことを知ってようが 知らなかっただろうが、横から急 に出てきて、人のもの取りやがっ て!!

あんたが現れてから、トウマは変 わっちゃったんだよ!!」

カナデはメグルを怒鳴りつけた。

「あんたさ、トウマに何をしてや れる?

知らないだろうけど、あいつには 夢があんの!」

「知ってる!!

トウマさんの夢は、舞台俳優にな ることですよね?」

メグルが負けじと言い返すと、カ ナデはさらに顔を赤くし、声を荒 げた。

「トウマと付き合うのにはね、金 がかかるの。

いい歳して、あいつには生活力も ない!

私はね、この体を売ってあいつを 養ってやってんだよ。

何十人もの男に抱かれて、時には 罵られて……。

それでもトウマを応援したかっ た。

この体を傷つけても、トウマの夢 が叶う瞬間に立ち会いたかった。

好きなだけじゃ、やっていけな い。

トウマと付き合うっていうのは、 そういうことなんだよ。

あんたに同じことできるの?

……ううん。してもらわなきゃ気 が済まない。

あんたもトウマの夢を応援してる んでしょ?」
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