幸せまでの距離

そこでメグルは、初めて気が付い た。

トウマのケータイを使ってまで、 カナデが自分を呼び出してきた 目的を……。

青ざめるメグルを、カナデは執念 深い目つきで見やり、

「これからあんたを、私が働いて る店に連れてく」

「あの、それはちょっと……」

「嫌とは言わせない」

メグルはカナデに言われるがま ま、彼女が働くデートクラブへ連 れて行かれた。



「何で拒否しなかったの?」

メイはカナデへの怒りを込めて、 メグルにそう訊いた。

振り切る隙はいくらでもあったは ずだ。

しかしメグルは、

「嫌だったけど……」

と、口をつぐんでしまう。




――店の出入口に到着するなり、 カナデはメグルにこう言った。

「逃げるのは自由。やりたくなかったら無理にやらな くてもいいよ。

……でも、あんたがやらないって 言うんなら、あんたの働いてる居 酒屋に、客のフリして匿名の電話 入れてやる。滝川メグルは人の男を寝取る女、 店の男性客となら誰とでもヤる女 だって」

「そんな!! ひどいです!

トウマさんのことは謝ります!

でも、あたし、そんなんじゃ ……!!」

さすがに頭にきたメグルはそう返 したが、カナデはまたもや勝ち 誇った笑みを見せ、

「あんたの言うことを、何人の人 が信じると思う?

バイトから社員に昇格したみたい だけど、新入社員の言うことにな んて、誰も耳をかさないよ。

信じてくれる人がいたとしても、 店側はそんな社員を店に置いとか ないだろうし。

たとえ気にせずあんたを雇い続け てくれたとしても、変な噂が飛び 交う中で、あんたは今までのよう に働き続けられるの?」

「っ……」
< 265 / 777 >

この作品をシェア

pagetop