幸せまでの距離

すぐに売春行為をさせられるのだ ろうか?

本当は恐怖心でいっぱいのメグル だったが、普段以上に客足も少な くメグルも初入店だということ で、今日は、別の女の子を指名し に来た客の帰宅を見送る役をする だけで済んだそうだ。

「さっきメイが声をかけてくれな かったら、今日ずっとカナデちゃ んにつきまとわれてたと思う」

カナデと一緒にいたメグルに話し かけた後、メグルに「ありがと う」と言われたワケを、メイはよ うやく理解した。

それだけでなく、カナデが専門学 校でメイに嫌がらせをしてきた理 由も。

「……なるほどね。

あいつは自分を犠牲にして男の夢 を応援してたってわけか。

陰険な女だとは思ったけど、何と なく納得した」

「納得したって?」

メグルがそう尋ねると、メイはカ ナデとの間にあったいざこざを簡 潔に話した。

「私が、生半可な気持ちで男の夢 を応援するのはやめろって言った のが、相当気に入らなかったんだ ろうね。

こっちは悪気なかったんだけど。

にしても、トウマってヤツを責め ればいいのにメグルに当たるなん て、とばっちりもいいとこだ」

メイは固く腕組みをする。

そうやって自分のことみたいに考 えをめぐらせてくれるメイに喜び を感じつつ、メグルは複雑な心境 で言った。

「トウマさんは、あたしのことな んて好きじゃなかったってことだ よ。

カナデちゃんが言ってたんだけ ど、トウマさん、あたしのことを カナデちゃんに話したんだって」

カナデはトウマにこう持ち掛けた そうだ。

メグルとの浮気を許すから、その 代わりにメグルの素性を教えてほ しい、と。

カナデがメグルの職場やそれに関 する簡単な経歴を知っていたの は、そういう経緯があったから だ。
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