幸せまでの距離

これまでに見せたことのないような冷た い表情で、トウマは言った。

「いい加減、気付けよ。

お前につきまとわれんの、迷惑なんだ よ。

もう、関わりたくないんだよ。

稼ぎ口を無くしたお前なんて、ただの性 奴隷でしかないんだよ。

今まで優しくしてやってたのも、金のた め、生活のため!

ATMとして活用してやってたのに、ま さか風俗やめるなんてなー?

あれにはビックリしたわ」

「トウマ……?」

知らない男が目の前にいる。

カナデは、トウマの言葉を信じられな かった。

トウマの姿を装った全くの別人が、そこ にいるかのようだ……。

「私、トウマの夢が叶ったの、嬉しかっ たんだよ?

体を売ることしかできなかったけど、そ れでも、少しはトウマの役に立てたのか なって……」

「思い上がんなよ」

「…………」

「最後に教えてやろうか?

俺の演技は、メグルちゃんのおかげで幅 が出て、認められるようになったんだ。

お前の影響なんて、少しもないんだよ。

それどころか、お前と一緒にいるとさ、 演技に幅が出るどころか、伸びる才能も 伸びなかったんだよ。


年下のクセに、何の苦労も知らないクセ に、金があるってだけで偉そうにしや がって。

好き勝手に命令しやがって。

気にくわなかったんだよ、前からさ」
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