幸せまでの距離

エレベーターが1階に到着する。

扉が開く前に、トウマは一気に言った。

「メグルちゃんと過ごすためなら、夢を 捨てて普通に働くのも幸せかもしれな いって思った。

あの子は、俺の全てだった……。

メグルちゃんは、俺のありのままを愛し てくれた。

バカにせずに、話を聞いてくれた。


なのに、お前のせいで、メグルちゃんは 俺から離れていったんだ。

お前と違って、あの子は優しくて純粋 で、他人を第一に考えられる子だから な。

……ほんっと。お前なんて、いなきゃよ かったのに」

ぶつけられる言葉に硬直し、カナデは動 けなくなった。

エレベーターの扉が開く。

彼女はなんとか声をふりしぼり、

「そんなの信じたくない。

最初から、私のこと好きじゃなかった の……?

夢のために利用してただけ?

お金だけの関係だったの?」

「ああ。お前んちが金持ちって知って、 使えると思ったんだよ。

劇団でちょっとした役もらっても無職同 然。

収入なんて、たかが知れてるし。


ちょっと優しくすれば、お前は狙い通り 簡単に引っかかってくれて。笑えた わ……!


でも、もう、お前は金すらくれなくなっ たから、会う目的も無くなったし。

そんなヤツの相手すんの、めんどくさく なってきてさー。


二度と、顔見せないでくれる?

俺にはもう、あの人がいるし」

あの人、とは、一緒に《1002》に 入った女性のことらしい。
< 624 / 777 >

この作品をシェア

pagetop