君の涙にキスを ~燐&蓮編~
「うん。私もそうだけど…たぶん、雪兎君も…」
切なそうに、ベッドで休んでいるはずの
雪兎の病室に目を向ける。
「雪兎、何か思い出したの?」
俺の問いに、麻子さんは首を横に振った。
「でも、時々変な事を呟いてるのよ。」
「どんな?」
「“桜の匂い”とか“月”とか。ねぇ、変でしょう?」
桜なんて咲いていないのにね、と小さく笑う麻子さん。
桜の匂い・・・月・・・?
まさか、アイツ。
俺達と最初に出会った日の事を思い出し始めてるんじゃ。
「他に、気がついた事ない?」
「えっ。ん~そうねぇ・・・」
この時、既に俺は間違いを犯していた。
雪兎の事を、聞く事に集中し過ぎて
病室の中の異変に、すぐに気が付かなかった。