きのこうどん
がんばれ発言の後、
笠井は黙り込みじっとボクの目を上目遣いで見つめていた。

困った。

本当に何を言えばいいのか分からない。
 
早くここを出たい。

しばらく続く沈黙はボクを引き止めた。

彼の瞳はじっとボクの顔を見て離そうとはしない。

それはきっと彼の深いおせっかい魂の根源みたいなものなのだろうけど、
今は重い粘着テープとなってボクの体にべた付き、絡まっている。

動けそうもない。

成績は中の下。
スポーツはからっきし。
今までの賞状暦は零。
 
バイトの履歴書に書けるような特技すら全くないと言っていいほどないボクは
今まで誰からも注目されることはなく、
平和に時を過ごして来た。

悩み事があっても誰にも相談しない、
困ったことがあれば自分で何とかする。
 
つまるところ今日まで誰にも迷惑かけずに生きてきたつもりだ。
 
そんなボクが珍しく担任と会話する。
本来ならこれはかなりの大イベント。
人生における汚点と言い換えてもいい。
 
進路の相談でさえろくにしないボクが
授業以外で初めて笠井と会話らしい会話をしなければならなかった今日。
 
そんな立場上、いきなり情を与えられてもいきなり大人との会話を迫られてもどうしていいのか分からない。
 
赤ん坊にウェイトリフティングをさせるようなもので持つ前からギブアップだ。
 
一応はその旨を伝えたのだから、帰りたい。
それが本音。
これ以上いたらどろりどろりと
ナイスミドルの粘っこい汁が溢れてきそうで、なんだか怖い。
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