きのこうどん
「あの、帰ってもいいですか?」
 
そう一言断り、職員室から出ようとすると突然呼び止められた。

「秋原!」

「はい?」

「がんばれよ。」

笠井はどこか遠くを見ていてボクに言っているような気がしない。
彼の瞳が誰を見て言っているのかわからず2、3秒間をおいてから返事をした。
 
「…はい。」

なんでだか分からないけど、「お心遣い感謝します」ってそう言わないといけない気がして一礼をした。その瞬間、
 
「後な、携帯なるべく持って来るな。」
 
彼の口から出た一言はいつもの笠井を想わせた。

野郎。

この期に及んで
「携帯電話は学校持ち込み禁止」
なんて校則を持ち出すとは。
 
「…はい。分かりました笠井センセイ。以後気をつけます。」
 
と、引きつった笑顔と棒読みで返事をしてやった。
 
全く。
 
こんなくだらない規則に縛られる痛い大人を
どうにか解放してあげることはできないものかと本気で思う。

職員室から出るとそこには松岡がいた。
科学部部長として、文化祭最後の出し物を先生と打ち合わせするため来ていたようだ。
 
目が合うと彼はいつものように手の平を上げ軽く言った。

「よっ。」

「おぅ。」

付き合いも10年を越えると、挨拶はこんな感じでいい。
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