きのこうどん
「坂登ればすぐだからさ!」
 
もちろんそこには家などない。
 
「あれ…?」
 
ボクは、気がついた。
間違っていることに。
 
「アハハハ。ごめんごめん。きっとあの坂だよ!」
 
そこには山ばぁの家そっくりのがあったけど
空家だった。
 
「…空家だね。」
 
ちこがぼそっと言う。彼女が涙ぐんできたのがわかる。
ボクらは、山麓の村で迷子になった。
 
「どうする?」
 
ボクは自分の中にある知恵
を最大限に振り絞りどうにか
山ばぁの家を探す決意をした。
 
ちこが聞いてくる。
 
「戻れる?もう暗いよ。」
「ごめん。ちこ、迷子になった。」
 
彼女の手がボクの手を強く握るのが分かった。ボクらは帰れないかもしれない。
 
「だからさ、交番を探そうよ。」
「交番?」
「うん。迷子になったらさ。交番に行くんだよ。」
「でも、あるの?」
 
こんな田舎に。とでも言いたそうだった。
確かに、この村に入ってから交番らしき建物は見ていない。それどころか、学校も。コンビニも。

「う~ん?多分あると思うよ。住所言えば道を教えてくれるさ!」
 
ボクはできるだけ笑って見せた。シャツ一枚なのにコートを着たような重い不安が乗っかるけどボクは守る人がいる。この人を家にまで連れて行かなくちゃいけないんだ。そう考えると頑張れた。
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