きのこうどん
「山ばあちゃんの家の住所知ってるの?」
「わかんない。」
 
山ばぁの名前ってのはあだ名だ。
ボクは彼女の本当の名前すら知らない。
 
ここで使えそうなボクの知識と言えば、
母さんの携帯番号。
 
「電話があったらかりればいいんだよ。迎えに来てもらお?」
 
そう言ってボクらは無造作に歩き回ることにしたんだ。

よく考えれば分かることなのに気がつかなかった。
ちこを探すまで、すでにボクは相当歩き回っていて足が痛かった。
 
その中に交番らしきものは見当たらなかった。建物どころか人すらも。
 
文明の匂いがするモノと言えば
土で汚れた自動販売機くらいしかなかった。
 
「…喉、乾いたね。」
 
暗くなるごとに不安は増す。
ボクの腕を掴んでいた彼女がそう呟いた。
 
辺りはもう真っ暗で
自動販売機に明かりがともり
それにしか目がいかなかったのだろう。
 
ボクも、同じものを見ていた。
 
「…うん。乾いたね。」
 
ボクらは黙ってその光を見つめた。
生唾がのどを通るのが分かる。
 
辺りは
闇色に染まりだんだん、
光が恋しくなっていく。
 
その中ようやく見つけた小さな光。
それはわずかな望みなんだけど
光は何もしてくれなかった。
 
目の前には水があるのに飲めない。
お金がないってこういうことだ。
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