きのこうどん

【きのこうどん】

定食屋は、昔爺ちゃんとよく行った店だった。

落ち着いた雰囲気のあるお店。
カウンターは全部で10席ほどしかない小さな店だったが居心地はよかった。
時折、厨房から上がる湯気が美味しい味を運んでくるその瞬間は、食欲を沸立たせた。

定食屋ののれんを押し店の中に入る父さんに実。

「すいませ~ん、まだやってますか?」

「やっているよ。いらっしゃい。」

厨房に立つ料理衣姿の店長のしゃがれた声がこだまする。

もうすぐ店じまいをしようとしていた雰囲気ではあったものの
店長が気を利かせてくれたようだ。

「僕はハンバーグね!!すいませーん。」

そう席に着くや否や実は元気良く声をあげた。

父はそうだなと呟きながらメニューをじっくりと眺めている。

母は、前かがみになって携帯を持ち携帯から目を背けようとしない。
まるで、連絡を待っているみたいに。

割烹着姿の大学生くらいのねえさんが注文を取りに来る。

「はい。お決まりで?」

「僕、ハンバーグ!」

「ハンバーグは20分ほどお時間がかかりますけどよろしいですか?」

「いいよ。」

そう言うと母が口を挟んだ。

「ダメよ。すぐに行かなくちゃいけないんだからすぐに食べれるものにして。」

そう言うと、実はしゅんとした。

「父さんはカツ丼にしようかな?」

「カツ丼もお時間かかりますがよろしいでしょうか…?」

「わかったよ。じゃあそれで。実もハンバーグにしろよ。どうせ時間がかかるんだから。」

「やった~!」

「ダメよ。」

そう言う母に

「いいじゃないか。夜は長いんだぞ?実は昼だってきちんと食べてないだろ?」

と、父が反論する。

母は少しむっとして黙り込んでしまった。

「あの…この店で一番早く食べれるものって何ですか?」

ボクは店員さんに聞いた。

「そうですね…日替わり定食か、ざるそばかな?」

目を細めながら店員さんが答える。

日替わり定食をボクは注文し
母はざるそばを注文した。
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