赤い月 弍

「ゆけ、祥子。
妾が伝授した魔法の言葉を、今こそ放つのじゃ!」


リビングに繋がる廊下を塞ぐように仁王立ちしたうさぎが、腕を伸ばして大吾を指差し、凛とした声を張り上げた。


(…うさちゃん…
俺が仕事行ってる間、そーゆー系の深夜アニメでも観た?)


「だだ大吾、昨日はゴメン…」


祥子は観念したように潤む目で大吾を見上げてそう言った後、力尽きたように項垂れた。


「え… ぁうぁ…
俺の方こそ…その…ゴメン。」


「大吾。」


祥子の突然の変身と突然の素直な謝罪に狼狽え口ごもる大吾に向かって、うさぎは挑発的に口角を上げた。


「今の祥子に、『気の荒い』『可愛いげのない』などと言う男はおらぬと妾は思うのじゃが。
そなたはどうであろうな?」


その言葉にビクリと体を揺らしたのは、祥子だ。

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