赤い月 弍

景時は何もせずに…
いや、何もできずに、唇を噛みしめてその後ろ姿を見送った。

うさぎが乾いた瞳で、そんな景時を見つめていることにも気づかずに。


「若!
オニが逃げた!」


景時のバイクの影に身を潜めていた若い僧が、焦った声を張り上げた。


「あー… うん。
わかってる。追っかける。」


ゆっくりと振り返った景時は、少し俯いて長めの髪で目を隠したまま口元だけでヘラっと笑った。

それだけで、若いオニ狩り僧の顔に安堵の表情が広がる。

彼らの知る『最強のオニ狩り』は、いつも飄々として、笑みを絶やさないのだ。

どんな苦境でも。
どんな逆境でも。


たとえ、彼の心が哭き叫んでいようとも。

< 159 / 215 >

この作品をシェア

pagetop