赤い月 弍
景時は何もせずに…
いや、何もできずに、唇を噛みしめてその後ろ姿を見送った。
うさぎが乾いた瞳で、そんな景時を見つめていることにも気づかずに。
「若!
オニが逃げた!」
景時のバイクの影に身を潜めていた若い僧が、焦った声を張り上げた。
「あー… うん。
わかってる。追っかける。」
ゆっくりと振り返った景時は、少し俯いて長めの髪で目を隠したまま口元だけでヘラっと笑った。
それだけで、若いオニ狩り僧の顔に安堵の表情が広がる。
彼らの知る『最強のオニ狩り』は、いつも飄々として、笑みを絶やさないのだ。
どんな苦境でも。
どんな逆境でも。
…
たとえ、彼の心が哭き叫んでいようとも。