赤い月 弍
違うのだ。
いや、確かに急を要する事態だが。
振り向けないのは、怖いから。
うさぎの瞳に誰が映っているのか、知るのが怖いから。
その心に住んでいるのは…
「若?」
立ち竦む景時とうさぎを、僧が急かすように交互に見る。
「ハイハイ。
わかって」
「景時。」
促され、歩き出した景時の躰がビクリと揺れた。
バジュラを握っていない左手で苛立ったように赤い髪を掻きむしり、深い溜め息を吐く。
「…なに?」
今にも逃げ出しそうな両足をなんとか宥め、体半分だけうさぎに向けたが、まだ顔は背けたまま。
「妾を信じよ。
小鞠は死なせはせぬ。
そして…」
景時は盗み見るように髪の隙間からチラリと視線をやると、うさぎは真っ直ぐにこちらを見ていた。
冷たく、だが優しく輝く二つのルビーが、ただ一人、景時を映して…
「妾は死なぬ。
そなたの為に。」