赤い月 弍
腕の中からスルリと逃げ出したうさぎに、今にも火を噴きそうな赤い顔を精一杯顰めた景時が、唸るように言う。
「約束、忘れたら許さねぇ。」
「ハっ」
迫力も何もあったものじゃない。
むしろ可愛いだけの景時を見て、うさぎは堪えきれず吹き出した。
んだよ、笑うなよ、コッチは真剣だっつーの、と口を尖らせる景時の、さっきできたばかりの頬の傷に触れ、うさぎは柔らかく微笑んだ。
だがすぐ瞳に挑戦的な光を宿し、見下すかのような冷たい表情になる。
「ふん。
誰にものを言うておる?
そなたこそ、抜かるなよ。」
肩にかかる黒く長い髪を頭を振って背に跳ねのけ、体育用具倉庫の影に消える小さな背中を、景時は立ち尽くしたまま見送った。