赤い月 弍
「景時、安心したか?」
神妙な顔つきになり、自分の名を呼んだうさぎの声に反応し、景時はやっとエクトプラズムを飲み込んだ。
「…あー… うん。
うさちゃん、冗談キツいわ。」
「すまなかったな、景時、薫。
…
だが、戯れにあのような事を言ったわけではない。」
うさぎの…いや、鬼神の静かだが威厳に満ちた声が、部屋の温度を下げた。
足元を這う冷気が、ただのちっぽけな人間である二人の躰どころか思考まで凍らせる。
冷気ではない。
鬼気だ。
ヒトではない。
オニだ。
「この先、そなたらにとって過酷な選択を、幾度も強いられるやも知れぬ。
身を引き裂かれるような決断を、幾度も強いられるやも知れぬ。
景時がその身を餌にしようとしたように。
薫が景時の意に反し、妾を狩ろうとしたように。
妾と共にあるとは、そういうこと。
ニヤニヤと見惚れてばかりいるわけにはいかぬのじゃ。」