赤い月 弍

彼女が儚く、今にも消え入りそうに笑っていたから。


「あの愚か者は妾が手を離した途端、なんの躊躇いもなくそなたの胸に飛び込んだ。
あのような状況下でありながら、そなたの怒りが向けられる事など思いもよらなかったのであろう。
そして今も尚、そなたはあの者らではなく、己を責めておる。」


「うさ…」


「小鞠もじゃ。
のう景時、知っておったか?
あの者ら、以前から小鞠に無法を働いておったようじゃ。
さぞや恐ろしかったであろうに、あのように妾を守ろうとするなど…

優しさは確かに美徳じゃ。」


うさぎの視線は暮れゆく空に戻り、その声は次第に小さくなっていく。
囁く言葉は、もはや景時に聞かせるためのものではないようだ。

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