赤い月 弍
だが景時は、小さな手でカーテンを握りしめる儚く弱々しいうさぎの背中に、釘付けにされたように動かない。
その言葉を一言も聞き漏らすことのないよう、呼吸さえ止め、全身を集中させる。
「だが、他者の為に己の身を削り、血すら滲むような優しさなど、そなたを苦しめただけではなかったか?
そのような過分な優しさなど捨ててしまえと言えば、美徳を穢したと、そなたは妾を蔑んだであろうか?
それともいつものように、困った顔で笑っただろうか?
…
たとえ聖人のように清らかでなくとも、人として当然の穢れにまみれていようとも、妾は…
‥‥そなたに‥‥‥」
囁きすら、消えた。