赤い月 弍

静寂の中、景時の存在すら忘れたかのように、うさぎは乾いた赤い瞳で月を見上げていた。

揺らぐ。溶ける。消える。
うさぎが。

恐怖に駆られた景時の躰が無意識の内に動いていた。

うさぎに駆け寄り、背後から乱暴に抱いた。
華奢な肩を握りしめ、その温もりを、存在を確かめる。


「…景時?」


タックルまがいの抱擁にその身を揺らしたうさぎが、夢から醒めたばかりのような幼い声で景時の名を呼んだ。


「ごめん。俺が悪かった。
あ、違くて。
俺は悪くない。
俺のせいじゃない。
俺は優しくないから。
だから…
だから、消えンなよ…」


景時は身を屈め、仄かに麝香が香る肌に頬を寄せて耳元で囁いた。

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