夜籠もりの下弦は恋を知る
「いつもいつも、私は重衡様と共にありたいと思っておりますよ。貴方様がゆらゆらとお揺れなさるので、留まりにくいだけです」
「フフッ、蜘蛛の巣にはお気をつけて下さいね。傍にいる時ならばいいのですが、生憎と出陣したらすぐにお助けできませぬゆえ」
(…これは暗に、戦での留守中、浮気するなって念押されてる…?)
耳に直接吹き込まれる夫の溜息まじりの美声に、輔子は甘く身を震わせたのだった。
それから少しして、維盛を大将軍とし、平氏の軍が源氏を迎え撃つため東国へ出陣した。
今回、重衡は清盛からお呼びがかからなかったため、大人しく福原に留まった。
出陣している一門の人間には悪いが、輔子は夫が行かないでいいことに心から安堵したのだった。
しかしその後、重衡の運命を死へと繋げる出来事が起こるなど、この時はまだ誰も想像しなかった。